AIの「退屈な部分」に隠された未来:TDKベンチャーズの投資哲学

テクノロジー

テクノロジーの未来って、ワクワクするものがたくさんありますよね!特に、AIとかロボットとか、SFの世界が現実になっていく様子は、見ていて飽きないです。今日は、そんな未来のテクノロジーを、ちょっと変わった視点から見つめているニコラ・ソヴァージュさんという方の考え方について、僕なりに深掘りしてみたいと思います。

ソヴァージュさんは、AIの「地味な部分」にこそ、これからの大きなチャンスが眠っていると信じているんです。なんだか、宝探しみたいで面白いですよね。彼は、本当に価値のある投資先がハッキリと見えてくるまでには、あと4年くらいはかかると予測しています。そんな先を見据えた考え方から、2019年に日本の有名な電子機器メーカー、TDKのコーポレートベンチャーキャピタル部門を立ち上げました。今では、この部門で4つのファンドを合わせて5億ドルもの資金を動かしているんです。すごいですよね!

彼の投資哲学を語る上で、外せないのがAIチップのスタートアップ、Groq(グロック)です。2020年、まだ「生成AIブーム」なんて言葉も一般的になるずっと前、そして、AIを動かすためのインフラにドカッとお金が流れるようになる前、ソヴァージュさんはGroqに投資しました。Groqを立ち上げたのは、GoogleのAIチップであるTPU(Tensor Processing Unit)の開発に携わったジョナサン・ロスさんという方です。彼が特に注目したのは、AIが質問に答えるたびに行われる、すごく計算量の多い処理、これを「推論(インファレンス)」と呼ぶのですが、この推論に特化したチップを開発することでした。

ロスさんのすごいところは、まず「コンパイラ」という、プログラムをコンピューターが理解できる形に翻訳するソフトウェアを先に設計したことです。そして、そのコンパイラが最大限に活かせるように、ハードウェアであるチップの設計を、必要最低限まで無駄なく、究極まで洗練させたんです。まるで、一つの部品でも欠けたら動かなくなってしまうような、精巧な時計のようなチップです。

一見すると、すごくニッチな部分に思えたかもしれません。でも、ソヴァージュさんは、TDKという巨大なメーカーの「親会社」が抱える制約を理解していました。そこで彼は、この「ニッチ」の中にこそ、他の人には見えない「非対称性」、つまり大きなチャンスを見出したんです。

考えてみてください。私たちが普段使うスマホやPCなどの消費者向けハードウェアには、どうしても性能や価格の上限があります。でも、AIの「推論」への需要は、新しいアプリケーションやAIモデルが登場するたびに、どんどん増え続けていくんです。AIエージェントが、まるで人間のように複数の指示を組み合わせて、計画を立てて実行するようになると、この推論の必要性は、爆発的に増えるはずです。ソヴァージュさんは、その頃にはまだそこまで予測できていなかったかもしれませんが、この先を見通す力がすごかったんですね。

Groqの共同創業者であるロスさんも、ある意味で「運が良かった」と言えるかもしれません。なぜなら、磁石を使ったテープで有名なTDKという、一見するとAIチップとは一番遠そうな、日本の大手電機メーカーが、彼の会社の投資パートナーになったからです。実際、ソヴァージュさん自身も、TDKベンチャーズの設立自体が、非常に珍しい出来事だったと語っています。

でも、彼は諦めませんでした。スタンフォード大学での連続2回の講義(一つはコーポレートVCの可能性について、もう一つはその失敗例の数々について)を聞いた後、なんと、彼はTDKの幹部に、自分自身でこのファンド設立のアイデアを提案したんです。彼はフランス人で、買収によってTDKに加わった経緯があり、本来ならそのような企画を提案する立場にはなかったにも関わらずです。

「私は日本人でもないし、日本語も話せない。東京に住んでいるわけでもないんです」と、彼は正直に語っています。それでも、もし断られても、彼はTDKにとって「次に何が大きくなるのか」、そしてそれを「潰してしまう可能性のあるもの」は何か、という問いに答えるためのファンド設立の承認を得たんです。この粘り強さと、物事の本質を見抜く力、本当に尊敬します。

それ以来、彼が築き上げてきた投資ポートフォリオには、この1年ほどでベンチャーキャピタル界の注目を集めるようになった技術が、たくさん含まれています。例えば、データセンターで使われる、全固体グリッド変圧器。これは、電気の供給をより安定させるための、革新的な技術です。あとは、ナトリウムイオン電池。これは、リチウムやコバルトといった、特定の地域に偏っていて地政学的なリスクが高い資源に頼らずに済む、新しいタイプの電池です。これらは、まさに「4年後のボトルネック」を見据えた、先見の明のある投資と言えるでしょう。

ソヴァージュさんの投資哲学の核にあるのは、「4年後にボトルネック(問題点)になりそうなものを見つけ出し、それを解決しようとしている起業家を見つける」という、非常に規律正しいアプローチです。では、次に何が来るのでしょうか?

ソヴァージュさんは、「物理的なAI」、つまり、現実世界で具体的な仕事をするロボットに注目しています。「やることが一つに限定されたロボット」という表現が、とても的確で腑に落ちます。彼のポートフォリオにあるAgility Roboticsという会社は、人手不足に悩む倉庫で、「物をある場所から別の場所へ運ぶ」という、一見地味だけれども、非常に重要な単一のタスクに特化したロボットを開発しています。

また、別のポートフォリオ企業であるANYboticsは、人間にとって危険すぎる場所、つまり「人が行けない場所」に人間のかわりに行く、という明確なミッションを持った、頑丈なロボットを開発しています。これらのロボットに共通しているのは、「目的の明確さ」です。ソヴァージュさんが投資しているロボットは、何でもできる万能型を目指すのではなく、一つ、困難なことを確実に、そして効率的にこなすことに特化しているんです。この「一点集中」こそが、現実世界でのロボットの実用化を加速させる鍵なのかもしれません。

さらに、ソヴァージュさんは、コンピューティングの「スタック」、つまり、ハードウェアからソフトウェアまでの一連の構造が変化していることにも注目しています。これまで、AIモデルの「学習」、つまり、大量のデータを並列処理して賢くしていくプロセスでは、GPU(Graphics Processing Unit)がその主役でした。しかし、Groqのような「推論チップ」は、AIが実際に質問に答える際の「速度」「コスト」「拡張性」を劇的に改善しています。

そして今、ソヴァージュさんは、かつてコンピュータの頭脳として君臨した「CPU(Central Processing Unit)」に、ルネサンスが来ると主張しています。CPUは、GPUほど計算速度が速いわけでも、最も強力なわけでもありません。しかし、CPUは非常に「柔軟」なんです。複雑な判断をしたり、状況に応じて処理を分岐させたりといった、AIエージェントがタスクを管理・調整する「オーケストレーション」においては、CPUが最も得意とするところです。

AIエージェントが、複雑なタスクをいくつかに分解し、それぞれに指示を出し、その進捗を確認し、必要であれば前のステップに戻って修正する、といった数十ステップに及ぶループ処理を行うようになると、全体を統括し、指示を出す「何か」が必要になります。その「何か」として、ますますCPUがその役割を担うようになっている、というわけです。AIの知能が高度化するにつれて、その知能を効率的に動かすための「司令塔」としてのCPUの重要性が増している、というのは、非常に興味深い洞察です。

そして、見逃せないのが中国の動向です。彼が注目しているEclipseというベンチャーキャピタルからの最近のレポートは、ソヴァージュさんが「バイブ製造」と表現する現象を記録しています。これは、ソフトウェア開発で「バイブコーディング」という、AIの支援を受けてアイデアを素早く形にする手法があるように、AIの助けを借りて物理的なハードウェアの試作品を、驚くほど速いサイクルで繰り返し改良していくプロセスを指しています。

中国の製造業者は、欧米のサプライチェーンがまだ追いつけていないスピードで、物理的な製品の設計、製造、テストというサイクルを圧縮しています。ソヴァージュさんにとって、これは「ボトルネック」の兆候であり、TDKベンチャーズはすでにこの分野で様々な投資を行っています。中国の「ものづくり」の進化が、世界のテクノロジーの未来に大きな影響を与える可能性を、彼は鋭く見抜いているのです。

最後に、彼が挙げる「残された未解決の問題」は、「器用さ」です。AIモデルは目覚ましいスピードで進化し、物理的なAI、つまりロボットが現実世界で活躍する未来は避けられないように見えます。しかし、それに対抗できるほどの「物理的な流暢さ」、つまり、人間のように滑らかで器用な動きが、まだロボットには欠けている、と彼は指摘します。

「原子(物理的なもの)を、コード(ソフトウェア)と同じスピードでイテレーション(繰り返し改良)できる国や企業は、製造業において優位に立つだろう」という彼の言葉は、非常に示唆に富んでいます。ソフトウェアの世界では、アイデアが生まれてからそれが形になるまでのスピードは、日々速くなっています。しかし、物理的な世界では、素材の選定、製造プロセス、そして組み立てなど、どうしても時間がかかってしまう部分があります。

この「物理的なイテレーション」のスピードを上げることができれば、それはまさにゲームチェンジャーになるでしょう。ソヴァージュさんは、TDKベンチャーズを、この、まだ誰もが追いつけていない「物理的なイテレーション」という波に乗せるために、戦略的に位置づけているのです。

AIの進化は、単にソフトウェアの世界だけの話ではありません。それが現実世界とどう結びつき、私たちの生活をどう変えていくのか。ソヴァージュさんのような、テクノロジーの「退屈な部分」にこそ未来を見出す視点は、私たちに、これからのテクノロジーの進化が、いかに多角的で、そしてエキサイティングなものであるかを教えてくれます。彼のような先見の明のある投資家たちの動きを追っていくことで、私たちは未来のテクノロジーがどのように形作られていくのか、そのヒントを得ることができるでしょう。これからのTDKベンチャーズの活動から目が離せませんね!

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