GM新バッテリー工場!EVコスト10%減&市場投入1年早まる

テクノロジー

■EVの心臓部、バッテリー開発の最前線へようこそ

なんだか最近、EV(電気自動車)って言葉、よく聞くようになったと思いませんか? でも、「EVって結局どうなの?」「バッテリーってそんなに大事なの?」なんて疑問に思っている人もいるかもしれませんね。今日の話は、そんなEVの心臓部とも言える「バッテリー」の開発、それも最先端の現場に飛び込んで、そこで燃え盛る熱い情熱、そう、まさに「技術愛」の物語です。

皆さんもご存知の、あの巨大自動車メーカー、GM。彼らが今、デトロイト近郊のウォーレン・テクセンターに、とんでもない施設を立ち上げたんです。その名も「Battery Cell Development Center(BCDC)」。「バッテリーセルの開発センター」なんて、聞くだけでワクワクしませんか? なんと、その広さは50万平方フィート、東京ドーム約1個分にも匹敵する巨大さ! ここで彼らが目指しているのは、EVのコストを約10%も削減し、さらに市場への投入を計画よりも1年早めること。これは、EV業界全体にとって、まさにゲームチェンジャーになりうる、そんな壮大な計画なんです。

でも、ちょっと待ってください。EV市場って、最近ちょっと元気がないっていうニュースも耳にしますよね? GMも例外ではなく、EV生産能力の再編で巨額の損失を出したり、人気のあるフルサイズEVトラックやSUVの刷新計画を一時凍結したりと、決して順風満帆とは言えない状況に直面しています。そんな中、なぜGMはこんなにもバッテリー開発に巨額の投資をし、新施設を立ち上げたのでしょうか?

その鍵を握るのが、テスラでバッテリー技術を率いた経験を持つ、GMのバッテリー&サステナビリティ担当副社長、カート・ケルティ氏。彼が「会社の成功は、新開発の『LMR(リチウム・マンガン・リッチ)』バッテリー化学技術にかかっている」と語るほど、このLMRこそがGMのEV戦略の「主軸」となることが目指されているのです。

■EV市場の停滞と、バッテリー技術の進化のジレンマ

さて、ここで少し、EV市場全体の状況を振り返ってみましょう。米国市場のEVへの移行が、思ったよりもスローペースだというのは、皆さんも感じているかもしれません。これは、過去数十年にわたり、バッテリー産業が経験してきた、まるでジェットコースターのような浮き沈みとも重なります。

初期の頃は、たくさんのスタートアップ企業が「次世代のバッテリー!」と華々しく登場しましたが、残念ながら期待通りの成果を出せずに姿を消していった企業も少なくありません。そして、中国のバッテリーメーカー、特にBYDやCATLといった巨人たちの驚異的なスピードとコスト競争力。これに直面し、多くの自動車メーカーやバッテリーメーカーは、5年前に立てた計画を根本から見直さざるを得なくなったのです。

GMも例外ではありません。この激しい競争圧力の中で、彼らがこれまでEVの主力としてきたバッテリープラットフォーム「Ultium」の寿命が、当初の予定よりも短縮されるという判断が下されました。業界の多くがそうであったように、GMもかつては、高価だけれども高性能な「NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)」バッテリー化学技術に大きな賭けをしていました。しかし、ご存知の通り、ニッケルやコバルトといった原材料価格の高騰、そして、これらの重要鉱物の供給において中国が大きな影響力を持っているという現実が、EVの価格を、私たちが期待していたよりもずっと高い水準に留まらせてしまっているのです。

もちろん、NMCバッテリーが完全に姿を消すわけではありません。GMは、引き続きハイエンド車両にはNMCを採用する方針ですが、これまでのように幅広い車種に搭載するというわけにはいかなくなりました。

■LMR:コストと性能の「いいとこ取り」を目指す革新

そこでGMが、まるで「切り札」のように開発を進めているのが、前述のLMR(リチウム・マンガン・リッチ)という新しいバッテリー化学技術なんです。GMによれば、このLMR、すごいのは、NMCと同等のエネルギー密度、つまり、一度の充電で走れる距離を維持できるのに、コストは、もっと手頃な価格帯のEVに搭載される「LFP(リチウム・鉄・リン酸)」バッテリーに匹敵するレベルになるとのこと。

具体的には、昨年発表されたLMRを「シボレー・シルバラードEV」のような大型トラックに搭載すれば、400マイル(約640km)以上の航続距離をほとんど維持しつつ、車両価格を少なくとも6,000ドル(約90万円)も削減できる可能性があるというのです。これが実現すれば、中価格帯のモデルでは、なんとガソリン車とほぼ変わらない価格帯でEVを提供できるようになるかもしれません。これは、EVの普及にとって、まさに革命的な一歩と言えるでしょう。

■研究から生産へ、その橋渡し役、BCDCの真価

新しいバッテリー化学技術の開発自体も大変なことですが、それをEV業界が求める、ギガワット時(GWh)という途方もない規模の製造ラインに乗せるとなると、話はさらに難しくなります。BYDやCATLといった、すでに巨大な生産能力を持つライバルたちのプレッシャーは相当なものです。だからこそGMは、このLMRを搭載した車両を、2028年までに市場に投入したいと考えているのです。そして、その計画を成功させるためには、先ほど紹介したBCDCが、計画通りに、そして期待通りに機能することが不可欠なのです。

BCDCは、GMのバッテリー戦略において、まさに「要」となる施設です。GMは、2022年には「Wallace Battery Cell Innovation Center」という研究施設と、最初のギガファクトリー(大規模なバッテリー工場)を稼働させました。しかし、Wallaceで生まれた画期的な研究成果を、テネシー州やオハイオ州にある実際の工場にスムーズに橋渡しする、その「道」が欠けていたのです。BCDCは、この失われた「道」を埋めるための、いわば、より大規模な「パイロットライン」のような役割を担います。

フル稼働すれば、1日あたり約2,500個、年間で約0.5ギガワット時(GWh)のバッテリーセルを生産できるようになります。ここで生産されたセルは、隣接するWallaceセンターで、もっと小規模(1日30~50個程度)に開発されたバッテリーが、実際の生産ラインで通用するレベルなのか、その「評価」を行うためのものなのです。

■スケールアップの壁を乗り越える、知恵と技術の結晶

新しいバッテリーのレシピ、つまり化学組成というのは、実験室でうまくいったとしても、それを商業規模の生産ラインに乗せたときに、必ずしも期待通りの性能を発揮するとは限りません。McKinseyの報告によると、生産ラインで18ヶ月以内に85%の収率(=合格率)を達成できない新化学技術は、商業的には「実行不可能」と見なされるべきだと言われています。

ここでの課題は、単に「作る能力」だけではありません。研究センターで開発される、コイン型のような小さなセルと、実際にEVのバッテリーパックに搭載される、まな板のように大きなセルとの間の「スケールアップ」も、非常に大きなハードルとなります。ケルティ副社長は、「Wallaceでレシピを学んだら、それをいかに大量生産するかを考えなければならない。コインセルから大型セルへの移行は、そのままうまくいかないため、多くのことを学ぶことになる」と語っています。BCDCは、まさにこの「移行」を、よりスムーズに行うための施設なのです。

BCDCでのテストランは、実際のフルサイズのUltium工場での生産に比べて、はるかに低コスト(約20万ドル)で実施できます。BCDCのチームが、この新しいLMRの製造プロセスを確立し、「これなら大丈夫だ」と確信できれば、その情報をそのまま本番の工場に引き継ぐことができます。ケルティ副社長は、設備はほぼ同一なので、引き継ぎはそれほど困難ではないと考えているのです。

BCDCは、テネシー州にある、280万平方フィート(約7.8万平方メートル)もの巨大なUltiumバッテリー工場と比較すると、規模としては1~2桁小さいと言えます。Ultium工場は年間約30万個のセル(45GWh)を生産するのに対し、BCDCは生産ラインの数も少なく、生産するセルの数も100分の1程度、混合タンクも2,000リットルではなく40リットルという規模です。それでも、BCDCは、隣接するWallaceセンターよりは、確実に1桁大きい。BCDCの責任者であるモー・ガレゴス氏は、「BCDCは、このギャップを埋めるためのものだ」と、その存在意義を語っています。

■AIとデジタルツイン:未来の製造現場を「見える化」する

さらなるコスト削減と効率化のために、GMは、AI(人工知能)モデルを駆使して、様々なプロセスをシミュレーションしています。同社は、計算能力に莫大な投資を行っており、その規模は「国立研究所レベル」とも言われています。

彼らは、物理現象を基にしたモデルを開発し、バッテリーの化学組成や生産プロセスのわずかな変更が、最終的なバッテリーセルの性能にどのような影響を与えるかを、コンピューター上でシミュレーションしているのです。LMRの開発だけでも、なんと1億5000万CPU時間という膨大な計算時間を記録しました。これは、多くの自動車メーカーが、エンジンの開発に費やす総時間を遥かに超える量です。

さらにすごいのは、BCDCの施設全体、つまり、設備を制御する盤や配線、混合タンクのブレードに至るまで、そのすべてをデジタル空間上に再現した「デジタルツイン」も作成されていることです。VR(仮想現実)ヘッドセットを使えば、まるで自分がその場にいるかのように、製造ライン全体を最初から最後まで体験できるのです。

このデジタルツインは、機器の周りに十分な作業スペースが確保されているか、制御システムが期待通りに動作するか、といった様々な確認作業に活用されています。これにより、開発段階での問題点の早期発見や、実際の工場立ち上げにかかる時間の短縮に貢献し、結果として数百万ドルものコスト節約につながっているのです。まさに、最先端のテクノロジーを駆使して、未来の製造現場を「見える化」していると言えるでしょう。

■EVの未来は、このLMRにかかっているかもしれない

EV市場は、最近は少し停滞気味ですが、世界全体で見れば、昨年は20%も成長しています。原油価格の高騰と、バッテリーコストの低下という二つの大きな波は、化石燃料からの移行を、もはや避けられないものにしています。

もし、このLMRバッテリーが、GMの計画通り、そして期待通りの性能で、適切なタイミングで市場に投入されれば、GMはコスト競争力のあるEVを、より多くの人々に提供できるようになるでしょう。そして、EVオーナーが常に心配している「航続距離への不安」も、大きく解消される可能性があります。

LMRは、BCDCが初めて挑戦する、まさに「新境地」とも言える課題です。しかし、この施設は、今後も、新たなバッテリー技術の研究開発から、それを実際の製品として生産ラインに乗せるまでの、重要な「橋渡し役」としての役割を担い続けていくでしょう。

GMは、かつて「あらゆる人に、あらゆる目的に合った車を」というスローガンを掲げていました。今、彼らが目指しているのは、それをEVの世界で実現すること。「適切な用途に、適切なバッテリーを」開発していく。このBCDCから生まれる、革新的なバッテリー技術が、私たちの日々の移動のあり方を、そして地球の未来を、どのように変えていくのか。その進化から、目が離せません。

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