■インターネットやSNSを開くと、毎日のように経済や投資についての議論が飛び交っています。特に最近の話題といえば何といっても為替、その中でも円安の動きについてです。ニュースを見れば専門家と呼ばれる人たちがテレビに出てきて、今の円安は日本経済にとってプラスなのだとか、いやいやこれ以上進んだら大変なことになるとか、それぞれの立場から熱く語り合っています。インターネットの掲示板やSNSのタイムラインを覗いてみても、個人の投資家たちが自分の持っているポジションがどうなるのかについて、日夜議論を戦わせている様子が見て取れます。
●こうした情報を見ていると、何が本当のことで、何を信じればいいのか分からなくなってしまうことはありませんか。誰かの意見を読んでは、なるほどそういう見方もあるのかと納得し、別の人の意見を読むと、いや待てよ、さっきと言っていることが真逆じゃないかと混乱してしまう。経済のニュースは難しそうだし、専門用語ばかりで何が何だか分からないから、とりあえず声の大きい人の意見をそのまま信じてしまおう、そう思いたくなる気持ちもよく分かります。
●しかし、ちょっと待ってください。世の中にあふれている情報のすべてが、純粋に私たちのためを思って発信されているわけではありません。むしろ、人間心理の根本を冷静に観察してみると、人は誰しも多かれ少なかれ、自分に都合の良いように物事を解釈し、発言してしまう生き物だということが見えてきます。今回は、そうした人間の隠された本音、特に経済や投資の文脈でよく見られる現象について、感情論を一切抜きにして、徹底的に客観的かつ合理的に紐解いていきたいと思います。
●そもそも、私たちが普段目にする意見や予測というものは、どのような背景から生まれてくるのでしょうか。経済の世界には、ドルを買っている人、日本円を持っている人、株に投資している人、不動産を持っている人など、さまざまな立場の人が存在します。これを専門用語でポジションと言ったりしますが、自分がどのようなポジションを取っているかによって、その人が見えている景色は驚くほどガラリと変わってしまうのです。
●例えば、手元にたくさんの外貨を持っていて、円安になればなるほど自分の資産価値が上がっていくという状況にある人を想像してみてください。この人は、心の中では間違いなく円安が進んでほしいと願っています。人間というのは面白いもので、自分が強く願っていることに対して、それを正当化するための理由を無意識のうちに探し始めてしまう傾向があります。円安が日本企業にとってどれほど有利であるか、輸出産業がどれだけ潤っているか、過去の歴史から見てこの円安は必然のトレンドであるというような、自分のポジションにとって都合の良いデータばかりを集めて、声高に主張し始めるのです。
●逆に、円高になってほしいと願っている人たちのグループに目を向けてみましょう。例えば、これから海外旅行に行きたいと考えている人や、海外から原材料を輸入して国内で販売している企業の経営者などは、円安が進むとコストが増大して大打撃を受けてしまいます。そのため、彼らの口から出てくる言葉は自然と、これ以上の円安は日本経済にとって致命的であるとか、政府や日銀はもっと強力な為替介入を行うべきだといった、円安を警戒し否定するような論調に染まっていくことになります。
●ここで非常に大切な視点があります。それは、発言しているその人が、客観的な真実を語っているのか、それとも自分のポジションを守るため、あるいは自分の利益を増やすために言いたいことを言っているだけなのかという違いを見極めることです。心理学や行動経済学の世界では、人間は自分に不都合な事実を無視し、自分に都合の良い情報だけを過大評価してしまう確証バイアスという心理傾向が強く働くことが知られています。つまり、ポジショントークをしている本人は、必ずしも悪意を持って嘘をついているわけではない場合が多いのです。自分自身がその意見を心の底から正しいと信じ込んでいるからこそ、タチが悪いとも言えます。
●しかし、社会人として、あるいはまともな人間として生きる上で、最低限の社会性と協調性は非常に重要な要素となります。真に社会性のある人間というのは、自分のエゴや我欲だけで物事を判断し、それをあたかも全体の利益であるかのように偽って発言したりはしません。私たちが暮らす社会は、お互いの信頼関係や客観的な事実の共有によって成り立っています。もし誰もが自分の利益だけを最優先し、自分が得をするためだけに嘘や偏った情報をバラまき始めたら、社会のシステム全体が機能不全に陥ってしまうでしょう。
●実際に、金融市場のデータを見てみても、この人間の心理と利害関係の面白いくらいの一致が確認できます。例えば、過去の円安局面において、個人投資家や投機筋のドル円の買いポジションがどれくらい偏っていたかを示すデータがあります。市場参加者の多くが円売り・ドル買いのポジションに大きく傾いている時期には、奇妙なことに、メディアやSNSでも円安を肯定する論調が圧倒的に増える傾向が見られます。みんなが円安になってほしいからこそ、円安を正当化するニュースや解説がまるで真理であるかのように持て囃されるのです。
●逆に、市場のトレンドが反転し、急激な円高に振れ始めた途端、それまで円安のメリットを熱弁していた人たちが急にトーンダウンし、今度は円高による恩恵や、これまでの円安がいかに異常であったかを語り始めるという現象が頻繁に観測されます。これは、人間がいかに自分の利害関係に縛られて生きているかを証明する、極めて分かりやすい実例だと言えるでしょう。
●こうした背景を踏まえると、私たちは世の中にあふれる情報に対して、どのように向き合っていけばよいのでしょうか。答えは非常にシンプルでありながら、実践するのは少し難しいかもしれません。それは、誰がその発言をしているのか、その発言によって誰が得をするのかという利害関係の構造を常に冷静に分析する癖をつけることです。
●感情論に流されず、ファクトと数字、そして合理性だけを武器にして情報を見るようにすると、世の中の見え方がガラリと変わってきます。例えば、円安が物価に与える影響についても、感情的には生活が苦しくなってつらいという面ばかりがクローズアップされがちですが、客観的なデータを見れば、輸入物価の上昇が国内の賃金上昇や企業収益にどのようなタイムラグで波及しているのかを冷静に計算することができます。感情を排除し、数字と事実の因果関係だけを追いかけていくと、誰が本当に客観的な分析をしていて、誰が自分の財布のために喋っているのかが透けて見えてくるようになります。
●世の中には、巧みな言葉を使って私たちの心理を誘導し、自分たちの利益へと誘導しようとする人たちがたくさんいます。投資の世界はもちろんのこと、ビジネスや日常生活のあらゆる場面において、ポジショントークは潜んでいます。だからこそ、私たちは常に警戒心を持ち、その情報の裏側にある動機を見抜く目を養わなければなりません。
●まともな人間、すなわち社会性と協調性を重んじる人間は、自分のエゴや我欲のために、意図的に周囲をミスリードするような発言をしたりはしません。客観的な事実を尊重し、たとえ自分にとって少し都合の悪いことであっても、それをありのままに受け入れて全体の最適化を図ろうとします。私たちが信用すべきなのは、耳障りの良い言葉を並べ立てて自分に都合の良い未来を約束してくれる人ではなく、どんな時でも冷徹なファクトと客観的なデータに基づき、バランスの取れた視点を提供してくれる人なのです。
●情報があふれかえる現代社会において、流されるままに生きることは非常にリスクが高い行為です。誰かのポジショントークに踊らされて大切な資産を失ったり、間違った判断を下したりしないためにも、私たち一人ひとりが批判的な思考力を持ち、感情論を排除して物事の本質を見抜く訓練を積む必要があります。
●経済のニュースを見るときも、SNSの投稿を目にするときも、一歩引いた視点から、この人は今どんな立場に立っていて、なぜこのような発言をしているのだろうかと考える習慣をつけてみてください。そうすることで、情報の海に溺れることなく、自分の頭でしっかりと考えて合理的な選択を下せるようになるはずです。エゴや我欲に満ちた言葉に惑わされず、客観性と合理性を羅針盤にして、これからの複雑な社会を賢く生き抜いていきましょう。

