既存GPUの性能を極限まで引き出しAI推論を10倍速にするKogの挑戦

テクノロジー

こんにちは、ガジェットとAIの海に溺れて早数年、日夜新しいシリコンの息吹を感じずにはいられない技術マニアの私です。みなさんは最近のAIの進化スピードにちゃんとついていけているでしょうか。LLMのパラメータ数はうなぎ登りで増え続け、気がつけばローカルで動かすにもクラウドで叩くにも、GPUのファンは常に全力回転、電力メーターは狂ったように回り、私たちの財布からは悲鳴が聞こえてくる、そんなハードウェアバブルの真っ只中に私たちは生きているわけです。

新しいGPUを買えば解決する、そう思っていませんか。Nvidiaの最新フラッグシップが出るたびに「これさえ買えばすべての悩みから解放される」という甘い囁きに財布の紐を緩めてしまうのが私たちガジェット好きの性というものですが、ちょっと待ってください。本当にハードウェアを買い換えることだけが唯一の救済なのでしょうか。今日は、そんな業界の常識を根底から覆し、今手元にあるGPUだけで限界突破のパフォーマンスを引き出そうと企む、フランスのヤバいスタートアップ「Kog」の技術について、胸を熱くさせながら語っていきたいと思います。

■いまAI業界が直面している静かなる絶望とハードウェアのジレンマ

近年の生成AIブームの裏側で、開発者や企業が最も頭を悩ませている問題、それは紛れもなく「推論速度」と「コスト」の壁です。チャットボットに何かを尋ねたとき、画面に文字がパラパラとしか表示されないイライラを経験したことはありませんか。あるいは、大量のデータを処理するエージェントシステムを組んだとき、APIの利用料金が月末にとんでもない金額になって冷や汗をかいたことはないでしょうか。

AIのモデルが巨大化するにつれて、推論時に必要となる計算量は爆発的に膨れ上がりました。これに対処するため、業界はより強力なアクセラレータ、すなわちGPUを買い求めることで解決を図ってきました。NvidiaのH100があり、H200があり、さらにその先のチップが控えている。資本力のある大企業であれば、潤沢な資金に物を言わせて最新鋭のクラスターを組み、力技で速度を担保することもできるでしょう。

しかし、すべての企業がそんなマネーゲームに参加できるわけではありません。それに、環境負荷や電力供給の限界を考えても、単に「よりデカいチップを挿す」というアプローチはいずれ頭打ちになることは火を見るより明らかです。GPUの価格高騰と入手困難さは、多くのイノベーターたちの足かせとなっています。

そんな閉塞感が漂うAIインフラ界隈に、一筋の強烈な光を投げかけたのがKogというわけです。彼らが掲げるスローガンは非常にシンプルで、そして最高にエキサイティングです。「新しいハードウェアを買うな、今あるものをもっと限界まで使い倒せ」。Nvidia H200やAMD MI300Xといった、すでにデータセンターに眠っている、あるいは企業が保有している既存のGPU。そのポテンシャルをソフトウェアの魔法で極限まで引き出し、AIの推論速度を劇的に向上させるというアプローチに、今世界中のエンジニアリングチームが熱視線を送っています。

■秒間3000トークンという頭がおかしいほどの爆速世界

Kogがどれほどすごいことをやらかしたのか、具体的な数字を出しましょう。彼らが公開したデモでは、20億パラメータの小型モデル「Laneformer 2B」を用いて、なんと秒間3,000トークンという圧倒的な処理速度を叩き出しました。

秒間3,000トークンと言われても、普段AIを使っている人でもピンと来ないかもしれません。通常の人間が読むスピードの何十倍、いや何百倍というレベルです。画面に出力が表示されるというよりも、一瞬でコンテキスト全体が生成されるような、まさにSF映画のワンシーンのような世界です。私たちが普段目にするLLMの出力スピードがいかに遅かったのか、この数字を見た瞬間に脳の配線が焼き切れるような衝撃を受けました。

もちろん、これは20億パラメータという比較的軽量なモデルでの話であり、大規模な言語モデル(LLM)全体でこの速度をそのまま実現できるかどうかが、彼らの今後の最大の挑戦となります。しかし、創業者であるガエル・デラロー氏の確信は揺るぎません。彼は、近年のGPUには私たちが想像している以上に、まだ解放を待っている豊富なメモリ帯域幅が眠っていると主張しています。

従来の常識では、GPUはLLMのデコード処理、つまりトークンを一つずつ順次生成していく作業に対してはそれほど向いていないと言われてきました。メモリ帯域幅の制限がボトルネックになり、演算器がいくら速くても待ち時間が発生してしまう、いわゆるメモリバウンドな状態になりやすいからです。そのため、トランスフォーマーモデルの推論を高速化するのは至難の業だとされてきました。

しかしデラロー氏は、その「GPUはデコードに向いていない」という定説こそが最大の誤解だと一刀両断します。ハードウェアの設計思想とソフトウェアの実行レイヤーの間に存在している非効率なギャップ。そこを徹底的に削ぎ落とし、ハードウェアの能力を余すことなく引き出すことができれば、既存のGPUでもまだまだ驚異的な速度が出せるというわけです。この「既存の資産で限界を超える」というストーリー、ガジェット好きなら心の底からワクワクせずにはいられないロマンに満ち溢れていますよね。

■物性物理学とホワイトハットハッカーの狂気が生んだ深層最適化

なぜKogだけにそんな離れ業が可能なのか。その秘密を紐解く鍵は、創業者であるガエル・デラロー氏のあまりにもユニークでディープな経歴にあります。

彼はフランスの名門エコール・ポリテクニークで物性物理学を学びました。物質のミクロな性質や量子力学的挙動を数理的に解き明かす科学的アプローチ。これが彼の基礎にあります。複雑なシステムがどのように振る舞うのかを根本から理解する視点です。

それだけではありません。彼は世界的なハッキングコンテストであるDEFCONのCTFトーナメントに4度も決勝に進出した経験を持つ、筋金入りのホワイトハットハッカーでもあります。アセンブリ言語やバイナリコードのレベルまで完全に理解し、ハードウェアやソフトウェアを本来の想定とは異なる目的でねじ曲げ、限界を超えた挙動を引き出す。いわゆる「ローレベルハッキング」の思考法が彼の血肉となっています。

この「物性物理学的なシステム理解」と「ハッカーとしての低レベル最適化スキル」の融合こそが、Kogの強さの源泉です。彼らは一般的なAIスタートアップのように、PyTorchやCUDAの高水準なAPIの上だけでコードを書いているわけではありません。GPUのアーキテクチャの深層に潜り込み、アセンブリやバイナリのレベルでメモリの動きやキャッシュのヒット率をコントロールし、演算器のパイプラインを極限まで効率化しているのです。

競合するフランスの企業であるZMLなども、ハードウェア非依存のソフトウェアで高速化を目指してアプローチしていますが、Kogのアプローチはさらに深層的です。スタンフォード大学のHazy Researchなどが進めてきたような、GPUアクセラレーションに対する学術的かつ極限まで深いレベルのアプローチを、実際のビジネスシーンのプロダクトとして昇華させようとしています。

ハードウェアの表面的な仕様に囚われず、シリコンの上を流れるデータの流れを完全に把握し、交通整理を行う。それはまるで、古の職人が手作業でエンジンの内部を研磨し、本来以上の馬力を引き出すチューニング作業を見ているかのようです。AIの文脈でここまでディープなハッキングが行われていること自体が、エンジニアリングの極致であり、芸術的な美しさすら感じさせます。

■手作業のチューニングという職人芸が抱える現実と未来への布石

しかし、この圧倒的なパフォーマンスの裏には、当然ながら相応の代償が存在します。Kogの現在のアプローチは、驚くほど手作業が多く、時間がかかるという致命的な側面を持っています。

GPUのアーキテクチャは、NvidiaのものであれAMDのものであれ、世代やモデルごとに細かな違いが存在します。新しいGPUが出るたびに、Kogのエンジニアたちは数週間から数月を費やして詳細な研究を行い、そのチップ専用の最適化コードを手作業で彫り込んでいく必要があります。

現在のKogのチーム規模は11人。精鋭揃いとはいえ、物理的に対応できるチップの数やモデルの数にはどうしても限界が生じます。世界中のあらゆるGPUとあらゆるLLMの組み合わせに対して、人間が泥臭くハッキングを繰り返すだけでは、いずれスケールの壁にぶつかることは彼ら自身が一番よく分かっています。

だからこそ、彼らは次の一手を考えています。長期的には、この職人的な最適化の方法論そのものを自動化し、エージェントベースのパイプラインに組み込む計画を立てています。人間が手作業で行っていたリバースエンジニアリングやコード生成のプロセスをAI自身に学習させ、新しいチップが登場した瞬間に自律的に最適な最適化パターンを見つけ出す仕組みを作る。もしそれが実現すれば、Kogは単なる「速いソフトウェアを作る会社」から、「あらゆるハードウェアの限界を自動で拡張するプラットフォーム」へと化けることになります。

フランス政府機関や、欧州の主要なクラウドプロバイダであるScalewayなどの強力な支援を受けていることも、彼らにとっては大きな追い風です。欧州が長年掲げてきた「技術主権」の文脈において、アメリカの巨大テック企業が提供する高価なハードウェアをただ輸入して消費するのではなく、自分たちのソフトウェアの知恵で既存インフラの寿命と性能を極限まで引き延ばすというアプローチは、政治的にも極めて高い価値を持っています。

■私たちが迎える次の未来と、限界突破のその先へ

Kogの当面の最優先事項は、LLMの世界において彼らのアプローチが本物であることを証明し切ることです。目標として掲げられている2025年9月頃までに、主要な大規模モデルで現在の10倍の速度向上を実現する。その実績を顧客に突きつけ、次のステージであるシリーズAの資金調達を成功させる。

私たちが日常的に使うAIアプリや、開発者が組む複雑なエージェントシステム、あるいはプロンプト一つで瞬時にゲームやアプリケーションが生成される未来。そのすべてにおいて、推論速度が10倍になり、コストが劇的に下がった世界を想像してみてください。AIはもはや「待たされるもの」ではなく、「思考のスピードと完全に同期するもの」へと進化します。

GPUを買い替える必要などない。今あるシリコンに、ソフトウェアの愛とハッキングの技術を注ぎ込めば、まだまだ私たちのマシンは速くなれる。Kogの挑戦は、効率化が行き詰まった現代のテック業界に対する痛快なカウンターパンチであり、ハードウェアとソフトウェアの境界線で魔法を信じ続けるエンジニアたちのロマンそのものです。

AIの進化の歴史を振り返るとき、私たちはしばしば「どれだけデカいモデルを作ったか」「どれだけ強力なGPUを並べた物量戦か」に目を奪われがちです。しかし、真のブレイクスルーはいつも、既存の制約を愛し、その隙間に隠された真実を見つけ出す変態的なまでの探求心から生まれてきました。

Kogが切り拓こうとしているこの爆速の世界が、私たちの手元に届く日はそう遠くありません。そのとき、私たちの手元にある少し古くなったGPUが、最新のフラッグシップ機をも凌駕するスピードで言葉を紡ぎ出す瞬間を想像しながら、私たちはもうしばらく、この進化のスピードから目を離すことができそうにありません。新しいハードウェアのカタログを閉じて、今夜は手元のコードの最適化について考えてみる。そんなエンジニアの血が騒ぐ夜を、彼らの挑戦は私たちに思い出させてくれるのです。

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