■クリエイターの権利と出版社の倫理:久保書店の電子書籍問題を深掘りする
最近、出版業界でちょっとした騒ぎになっていますね。一部の漫画家さんや関係者の方々が、自分たちの作品が、許諾を得ないまま、あるいは本来支払われるべき印税が支払われないまま、電子書籍として流通させられているのではないか、という疑いが浮上しているのです。特に「久保書店」という出版社が関わっているとされ、その問題の根深さが指摘されています。
この騒動の発端となったのは、2018年末のこと。漫画家の大庭佳文さんが、SNSでこんな衝撃的なツイートをされました。「現在流通している久保書店の電子書籍、私の物を含めてほとんどか全部印税が払われていません。漫画村並に酷いです。」と。あの「漫画村」といえば、著作権侵害で社会問題になったサイトですよね。それと同列に語られるほど、深刻な事態だと感じられたのでしょう。さらに、大庭さんは、自分の作品が電子書籍化されていたこと自体も、その時点では知らなかったと仰っているのです。これは、クリエイター自身が知らないうちに、作品が収益を生む形で流通していた、という、まさに青天の霹靂だったのではないでしょうか。
その後、2026年7月になり、虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんという方が、この久保書店の電子書籍配信の問題について、さらに踏み込んだ情報を発信されました。複数の漫画家さんや関係者の方々から、「無断で電子化された」「電子化されたこと自体を知らなかった」「印税が支払われていない」といった、切実な証言が集まっていることを指摘されたのです。これは、単なる個別のケースではなく、組織的、あるいは広範囲にわたる問題の可能性を示唆しています。
さらに驚くべきは、この問題に対して異議を唱えようとすると、久保書店側から弁護士を名乗る人物からのダイレクトメッセージ(DM)が送られてくる、という実態も明らかになったことです。このDMの内容について、虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんは、「作者に無断で数百作品を電子化しまくってるのでワンチャンあると思う」と投稿されています。つまり、相手側も、自分たちの行為に何らかの「ワンチャン」(可能性、もしかしたら)があると考えている、あるいは、それを強弁しようとしている、と捉えられているわけですね。
送られてきたDMには、抗議の声を封じ込め、関係者を萎縮させることを狙ったような内容が含まれていたとされています。しかし、虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんは、それを「中身のない脅し、ハッタリにすぎない」と冷静に分析され、今後も告発運動を続けていくという強い意志を示されています。これは、クリエイターとしての正義感と、情報発信者としての責任感からくる行動なのでしょう。
このDMの送り方や内容に対して、他のユーザーからも多くの疑問や批判の声が上がっています。弁護士が、いきなりDMで個人情報を要求したり、訴訟を示唆したりするというのは、一般的な弁護士の対応としては、かなり異例で不自然だと感じる人が多いようです。中には、これは脅迫や恐喝にあたるのではないか、といった厳しい指摘もありました。法的な手続きを踏むのであれば、まずは正式な通知や、弁護士を通じた書面でのやり取りが一般的であるはずです。このような形でのアプローチは、相手を精神的に追い詰め、言論を封じようとする意図が透けて見える、と受け取られても仕方がないのかもしれません。
さらに、この件について虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんは、重要な補足もされています。紙の書籍については、きちんと印税が支払われているけれども、現社長体制になってからの電子書籍に関する印税が未払いである、という点です。これは、問題が「電子書籍」という新しいフォーマット、あるいは「現社長体制」という特定の時期に集中している可能性を示唆しており、問題の構図をより鮮明にする情報と言えるでしょう。
この一連の出来事は、単なる一出版社の問題にとどまらず、出版業界全体、そしてクリエイターが正当な対価を得られる環境について、根源的な問いを投げかけています。著作権、契約、そしてクリエイターへの公正な対価の支払い。これらのテーマは、デジタル化が進む現代において、ますます重要性を増していくはずです。今後、この問題がどのように展開していくのか、多くの関係者、そして読者が固唾を飲んで見守っている状況と言えるでしょう。
■なぜ「無断電子化」は起こりうるのか?心理学と経済学の視点から
さて、なぜこのような「無断電子化」や「印税未払い」といった問題は起こってしまうのでしょうか。単に「悪意ある事業者」と片付けるだけでは、問題の本質は見えてきません。そこには、人間の心理や、経済的なインセンティブが複雑に絡み合っています。
まず、心理学的な側面から見てみましょう。人間は、自分が「正しい」と信じていること、あるいは「正当化できる」理由があると、倫理的に問題のある行動でも実行してしまうことがあります。これを「認知的不協和」の解消と呼ぶこともあります。例えば、久保書店側が、「電子書籍化は時代の流れであり、クリエイターにとってもメリットがあるはずだ」「自分たちはクリエイターの作品を世に広めるために尽力しているのだから、多少の不備は許されるはずだ」といった考えを持っているとします。もし、彼らが「クリエイターへの敬意」よりも「ビジネスの拡大」を優先してしまう傾向にあるならば、たとえそれがクリエイターの権利を侵害する行為であったとしても、「自分たちは悪くない」と思い込んでしまう可能性があるのです。
また、「現状維持バイアス」も影響しているかもしれません。一度確立されたビジネスモデルや慣習を変えることは、多くの労力とコストがかかります。特に、紙媒体での出版を主軸としてきた出版社にとっては、電子書籍への移行は、権利関係の整理、新しい技術の導入、販売チャネルの開拓など、多くのハードルがあります。そのため、「とりあえず、できる範囲で」「過去のやり方を踏襲して」という意識が働き、結果として、本来必要な許諾手続きや印税計算を怠ってしまう、ということも考えられます。
さらに、「集団的意思決定」の落とし穴も無視できません。組織の中で、誰か一人が「これはおかしい」と声を上げたとしても、それが全体に伝わらなかったり、あるいは「みんなやっているから大丈夫だろう」という「集団浅慮」に陥ったりすることもあります。特に、判断権限を持つ人物の意向が強く影響する場合、その人物が倫理的な問題に鈍感であったり、利益を優先したりする傾向があると、組織全体がそのような行動様式に染まってしまうリスクがあるのです。
経済学的な視点から見ると、この問題は「情報の非対称性」と「契約の不備」が大きく関わっています。
まず、「情報の非対称性」とは、取引当事者間で持っている情報の量や質が異なる状況を指します。このケースでは、出版社(久保書店)は、自社がどの作品を、いつ、どのように電子書籍化しているか、そしてそれに伴う収益がどうなっているか、といった情報を詳細に把握しています。一方、クリエイター側は、そうした詳細な情報を得る機会が限られています。特に、電子書籍の流通は複雑で、販売プラットフォーム、販売価格、キャンペーンなど、収益を左右する要因が多岐にわたります。クリエイターが、これらの情報にアクセスし、自らの印税が適正に計算されているかを確認するのは、容易ではありません。この情報の非対称性を利用して、出版社側が有利な状況を作り出している、という見方もできます。
次に、「契約の不備」です。出版契約は、書籍の販売方法、収益の分配、権利の所在など、多くの項目を定めています。しかし、電子書籍という比較的新しいフォーマットが登場する以前に結ばれた契約の場合、電子書籍化に関する取り決めが不明確である可能性があります。また、契約内容がクリエイターにとって不利な条件であったり、解釈の余地が大きかったりする場合、後々トラブルの原因となります。出版社側が、こうした契約の不明確さを突いて、電子書籍化を進めている、という可能性も考えられます。
さらに、経済学でよく議論される「フリーライダー問題」も関連してくるかもしれません。フリーライダーとは、他人がかけたコストを負担せずに、その恩恵だけを受けようとする人のことを指します。もし、電子書籍化によって出版社が大きな利益を上げているにも関わらず、その利益の一部をクリエイターに還元しないのであれば、出版社は「フリーライダー」となっていると言えます。クリエイターが著作権という「コスト」をかけて作品を生み出しているにも関わらず、その「恩恵」である収益を適正に得られない状況は、経済的な観点からも不公平です。
■統計データが語る、クリエイターの収入と著作権侵害の実態
この問題の深刻さをより理解するために、統計データに目を向けてみましょう。クリエイター、特に漫画家やイラストレーターといったコンテンツ制作者が、その労働に対してどれだけの対価を得られているのか、そして著作権侵害がどれほど蔓延しているのか、といったデータは、この久保書店の事例をより大きな文脈で捉える助けとなります。
まず、クリエイターの収入についてです。残念ながら、個々のクリエイターの正確な収入データを網羅的に把握するのは難しいのが現状です。しかし、一般的に、フリーランスとして活動するクリエイターの収入は不安定であり、多くの人が十分な収入を得られていないという調査結果が散見されます。例えば、ある調査では、フリーランスのイラストレーターの平均年収が、会社員に比べて低い傾向にあることが示されています。これは、仕事の獲得状況、単価、そして著作権使用料といった収入源の安定性によるところが大きいと考えられます。
今回の久保書店のケースのように、電子書籍化による収益がクリエイターに正しく分配されない、あるいは全く分配されないとなると、クリエイターの収入はさらに圧迫されます。本来であれば、電子書籍という新しい販売チャネルは、クリエイターにとって新たな収益源となり得るはずです。しかし、それが実現されないばかりか、既存の収益源(紙媒体の印税)にも影響を与える可能性すらあります。
著作権侵害の実態についても、統計的なデータがあります。漫画村のような海賊版サイトによる被害は、過去に大きな問題となりました。著作権侵害対策協議会(ACCS)などの調査によると、漫画やアニメ、ゲームなどのコンテンツが、インターネット上で不正に流通しているケースは後を絶ちません。こうした不正流通は、クリエイターや出版社が正当な収益を得る機会を奪うだけでなく、クリエイティブ産業全体の健全な発展を阻害します。
今回の久保書店の問題は、こうした広範な著作権侵害とは少し異なります。これは、法的な手続きや契約関係を無視した、ある種「グレーゾーン」あるいは「ブラックゾーン」での行為と見なされる可能性があります。しかし、結果としてクリエイターが正当な対価を得られないという点では、著作権侵害と同質の問題を孕んでいます。
統計的に見ると、著作権侵害による経済的損失は、数千億円規模に及ぶと推計されている調査もあります。この数字は、あくまで推計であり、正確な把握は困難ですが、著作権侵害がいかに大きな経済的損失を生んでいるかを示唆しています。久保書店のケースが、この統計データにどれだけ影響を与えるかは不明ですが、クリエイターが正当な対価を得られない状況が放置されれば、クリエイティブ産業全体の活力低下に繋がることは間違いありません。
■「脅しのDM」が示す、組織的な隠蔽工作の可能性
虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんが受け取った、弁護士を名乗る人物からのDM。このDMの内容が、単なる個人の強がりや、誤解からくるものではなく、組織的な隠蔽工作の可能性を示唆している、と分析するのは、単なる憶測ではありません。そこには、行動経済学や法心理学の知見が活きる部分があります。
まず、心理学的に見ると、相手を「脅す」という行為は、相手の「認知」と「感情」に働きかけ、行動をコントロールしようとする試みです。弁護士という専門家、あるいは権威ある存在からのメッセージであるかのように装うことで、相手に「これは法的な問題だ」「反論しても無駄だ」「自分は不利な立場にいる」といった認知的な歪みを生じさせようとします。さらに、訴訟の可能性を示唆することで、相手に「金銭的・時間的な損失」という恐怖心を抱かせ、感情的な動揺を引き起こそうとします。
これは、心理学でいう「権威への服従」や「損失回避」といったバイアスを巧みに利用した手法と言えるでしょう。人々は、権威ある人物からの指示には従いやすい傾向があり、また、得られるはずの利益よりも、失うことへの恐怖心を強く感じる傾向があります。このDMは、まさにこうした人間の心理的な脆弱性を突いているのです。
経済学的な観点からは、このような「見せかけの脅し」は、コストをかけずに目的を達成しようとする戦略と捉えることができます。正式な法的手続きを踏むには、弁護士費用や時間、労力がかかります。しかし、相手を脅すだけで、相手が自主的に抗議をやめたり、沈黙したりすれば、出版社側はそれらのコストをかけずに、問題を「なかったこと」にできる可能性があります。これは、一種の「情報経済学」における「シグナリング」の歪んだ形とも言えます。本来、シグナリングは、信頼性のある情報を伝えるために行われますが、ここでは、虚偽の情報(あるいは誇張された情報)を伝えることで、相手を誤認させようとしています。
法心理学的な視点で見ると、このDMの文面や送り方には、「組織ぐるみ」の可能性が垣間見えます。もし、これが個々の従業員の独断で送られたものだとすれば、その従業員が極端な行動に出ている、と考えることもできます。しかし、弁護士という外部の専門家を介して、統一されたメッセージを送っているとすれば、それは組織として、ある種の「対応マニュアル」のようなものに基づいて行動している可能性を示唆します。
具体的には、以下のような点が組織的な隠蔽工作の可能性を示唆しています。
■統一されたメッセージ:■ 複数のクリエイターに同様のDMが送られている場合、それは組織的な指示に基づいている可能性が高いです。
■「弁護士」という肩書きの利用:■ 相手を威圧し、言論を封じるために、権威ある「弁護士」という立場を悪用している可能性があります。これは、個人の感情的な反発ではなく、計算された戦略であると考えられます。
■情報開示の限定:■ DMの内容が、具体的な法的根拠や事実関係を詳細に説明するのではなく、抽象的な脅しに留まっている場合、それは、具体的な説明を避けることで、自らの行為の不正さを隠蔽しようとしている意図があるのかもしれません。
虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんが、このDMを「中身のない脅し、ハッタリにすぎない」と分析しているのは、まさにこの点に気づいているからでしょう。法的な裏付けのない、単なる威嚇行為であるならば、それに怯む必要はない、という強い意志の表れです。
しかし、こうした「脅しのDM」が送られてくること自体が、クリエイターや告発者にとって、精神的な負担となることは間違いありません。恐怖心から、本来声を上げるべきところで声を上げられなくなる、という「萎縮効果」は、無視できない影響力を持っています。組織的な隠蔽工作は、単に不正行為を隠すだけでなく、それを指摘する人々をも沈黙させようとする、より悪質な側面を持っていると言えるでしょう。
■クリエイターの権利を守るために:私たちができること
さて、この久保書店の件は、私たち読者にとっても、決して他人事ではありません。私たちが普段楽しんでいる漫画や書籍が、どのように作られ、クリエイターにどのような対価が支払われているのかを知ることは、より健全な出版文化を育む上で非常に重要です。
では、私たち読者は、この問題に対して、そしてクリエイターの権利を守るために、具体的に何ができるのでしょうか。
まずは、「知ること」が第一歩です。今回の久保書店の件のように、SNSやニュースで発信される情報を注視し、クリエイターが置かれている状況について関心を持つことが大切です。出版社のウェブサイトや契約内容を詳しく調べることは難しいかもしれませんが、クリエイター自身が発信する情報に耳を傾けることから始めることができます。
次に、購入行動を通じて、クリエイターを応援するという方法があります。
「正当な対価が支払われているか」という視点を持つことは、応援の仕方を変えるきっかけになります。例えば、単に安価な電子書籍に飛びつくのではなく、応援したいクリエイターの作品は、可能であれば正規のルートで購入するという選択肢があります。紙媒体での購入はもちろん、正規の電子書籍ストアでの購入は、クリエイターや出版社に直接収益をもたらし、彼らの活動を支えることに繋がります。
また、SNSなどで、クリエイターの作品を応援するコメントを投稿したり、作品の魅力を共有したりすることも、クリエイターにとっては大きな励みになります。こうした「共感」や「支持」は、クリエイターが困難な状況に立ち向かうための精神的な支えとなるでしょう。
さらに、今回の久保書店の件のように、クリエイターの権利が侵害されている疑いがある場合、SNSでの告発や情報共有は、問題の可視化に非常に有効です。もちろん、情報の発信には責任が伴いますが、虫塚虫蔵@ソースは無料ですさんのように、ファクトに基づいた情報発信を続けることは、多くの人々の関心を引きつけ、問題解決に向けた動きを加速させる可能性があります。
もし、あなたがクリエイターであったり、クリエイターの知人であったりする場合、契約内容をしっかり確認し、疑問点があれば専門家(弁護士など)に相談することをお勧めします。今回の件では、弁護士が「脅し」の道具として利用された例がありましたが、本来、弁護士はクリエイターの権利を守るための強力な味方となり得ます。
出版業界全体として、クリエイターとのより公正で透明性の高い関係を築くことが求められています。著作権保護、契約内容の明確化、そして電子書籍時代にふさわしい印税制度の確立は、急務と言えるでしょう。私たちは、読者として、こうした業界の変化を後押しする声を発信し続けることもできます。例えば、出版社に対して、クリエイターへの公正な対価支払いを求める意見を伝えることや、クリエイター保護を推進する団体を支援することなどが考えられます。
この久保書店の問題は、クリエイターが正当な評価と対価を得られる環境を、改めて問い直す機会を与えてくれています。私たち一人ひとりの行動が、より良いクリエイティブエコシステムを築く一歩となるはずです。

