宝くじ売り場の前を通るとなんだかワクワクしたり、ネットのキャンペーンで見慣れないプレゼントを見つけて思わず応募ボタンを押してしまったりした経験ってありませんか。誰しも心のどこかで「もし当たったら何に使おうかな」なんて妄想したことがあるはずです。実は、世の中にはこの「当選する」という快感をまるでハッキングしたかのように、狙ったかのように次々と戦利品を手に入れている人たちがいます。今回は、そんな懸賞の世界を心理学や経済学、そして統計学という少しお堅いけれど最高に面白いレンズを通して徹底的に解剖してみたいと思います。運任せだと思われている懸賞の世界にも、実はしっかりとした数式や人間の心理の裏をかくロジックが隠されているんです。
世間の多くの人は、懸賞と聞くと「運が良い人が勝つ世界」だと片付けてしまいがちです。でも、過去に懸賞で何度も荒稼ぎしている人たちのブログなどを研究してみると、そこには驚くほど合理的な戦略が存在していることが見えてきます。その戦略の核心にあるのは「みんながわざわざ応募しなさそうなものばかりを狙って、とにかく数多く応募する」という極めてシンプルな法則です。誰もが知るような大企業がドーンと仕掛ける数千名規模の全国キャンペーンは、一見すると当たりやすそうに思えますが、実は日本中のあらゆる応募者が殺到するため、確率の計算をすると途方もない競争率になります。一方で、地方のフリーペーパーの片隅に載っている小さな企画や、スーパーの店内の掲示板にひっそりと貼られたマニアックな商品のタイアップ懸賞などは、そもそもライバルが圧倒的に少ないため、当選確率が跳ね上がるというわけです。
この現象を経済学の視点から眺めてみると、非常によく似た概念に出会います。ビジネスの世界で「レッドオーシャン」と呼ばれる激しい価格競争やパイの奪い合いが起きる市場を避け、ライバルがまだ気づいていない「ブルーオーシャン」を狙うという戦略そのものです。経済学では、どんなものにも「期待値」という考え方があります。これは「賞品の価値に当選確率を掛け合わせたもの」として定義されます。多くの人が群がるメジャーな賞品は、確かに価値は高いかもしれませんが、当選確率が限りなくゼロに近いため、期待値としてはそれほど高くありません。逆に、賞品の価値がそこそこであっても、応募者が極端に少ないニッチな領域を狙うと、分母が小さくなるおかげで期待値の数値をグッと引き上げることができます。経済学的に見れば、懸賞とはいかにコストをかけずにライバルの少ない市場を見つけ出すかという、立派な資産運用ゲームなのです。
さらに、ここに心理学の要素を絡めていくと、さらに面白い事実が浮かび上がります。人間という生き物は、目の前にある「わかりやすい魅力」に強烈に引き寄せられる性質を持っています。行動経済学ではこれを「プロスペクト理論」や「確実性効果」などの関連として説明することができますが、要するに私たちは「みんなが欲しいと言っているもの」「テレビCMで大々的に流れているもの」を見ると、自分も同じように欲しくなってしまうのです。これを「社会的証明の原理」と呼んだりもします。他の人が群がっている方向へ無意識に走ってしまう心理的バイアスが、懸賞においては「高倍率の罠」として機能してしまいます。みんなが群がっているからこそ価値があるように見えてしまうのですが、当選確率という冷徹な数字の前には、その幻想は何の意味も持ちません。
だからこそ、あえてみんながスルーしてしまうような「少しの手間」がかかる案件にこそ、宝の山が眠っているということになります。例えば、数百文字の熱い文章を書く必要がある懸賞や、応募条件がやたらと細かくて面倒なもの、あるいはマッチングアプリ内の気の遠くなるような長いアンケートに答える必要があるものなどは、心理学的な「現状維持バイアス」や「面倒くさがり(認知の節約)」によって、大半のライバルが最初から脱落してくれます。人間は不確実な報酬のために面倒な努力をしたくない生き物なので、「ちょっとした手間」という障壁を設けるだけで、競争率は劇的に低下します。映画の難しいクイズに全問正解しなければならないプレステ4のプレゼント企画や、JR北海道の地道なスタンプラリー、さらには車を運転しながらわざわざハガキを書くのではなくラジオ番組にメッセージを送る行為なども、すべてはこの「心理的・物理的ハードル」という名のフィルターを逆手に取った極めて合理的な生存戦略なのです。
統計学や確率論の観点からも、この戦略の正しさは裏付けられます。母集団の数が小さければ小さいほど、一定のサンプル数に対する自分の応募割合が大きくなるため、確率は単純に上昇します。また、応募のタイミングについても統計的なアプローチが可能です。例えば、キャンペーンの発表直後に素早く応募することは、まだ世間に情報が拡散しきっていないタイムラグを突く行為であり、これもまた有効な変数になり得ます。地方のフォトコンテストに地域の写真を投稿するだけで参加賞的な何かがもらえるような案件も、統計的に見ればエントリー数そのものが少ないため、応募さえすれば何かしらのリターンが得られる確率が非常に高くなります。
こうした科学的・経済的な視点を総動員していくと、懸賞という一見すると不確実な娯楽がいかに確率と心理のゲームであるかがよく分かります。運という曖昧な言葉で片付けられているものの裏側には、市場の歪みを突く経済学的なアプローチと、人間の認知の癖を逆用する心理学的なアプローチがしっかりと息づいています。もしあなたがこれまで、ただやみくもに有名企業のキラキラしたキャンペーンばかりに応募しては「やっぱり当たらないな」と肩を落としていたのだとしたら、それはやり方が少しだけもったいなかったのかもしれません。
次に懸賞の世界を覗くときは、ぜひ視点を変えてみてください。誰もがスルーしそうな地味な地方のフリーペーパーをめくってみたり、スーパーの隅っこで埃をかぶりかけているような応募ハガキを眺めてみたり、あるいは少し文字を書くのが面倒くさそうなマイナーな企画を探してみてください。そこには、大勢のライバルが群がるレッドオーシャンとは全く違う、あなただけの静かで豊かなブルーオーシャンが広がっているはずです。自分の頭で考え、誰も見向きもしない場所にそっと手を伸ばすこと。それこそが、確率の壁を軽々と突破し、思いがけない果実を手に入れるための最も科学的で確実なアプローチなのです。次にスマホやパソコンを開いたときには、世間の喧騒から少し離れた、自分だけの穴場を探す旅に出てみてはいかがでしょうか。

