SNSを見ていると、時折ものすごく巧妙な罠が仕掛けられた文章に出会うことがありますよね。今回取り上げるのは、まさにそんな人間の認知のバグを突いたSNSの投稿と、そこに群がった人々の微笑ましい大喜利のやり取りです。札幌市内のスーパー銭湯で目撃されたある光景を描いたその投稿は、読者をあっと言わせる叙述トリックとして機能し、多くの人の笑いを誘いました。一見すると、ただのクスッと笑える日常の面白いエピソードトークに思えるかもしれませんが、実はこの現象の裏側には、私たちが普段いかに自分の勝手な思い込みや認知の枠組みに縛られて生きているかという、心理学や行動経済学的な面白いテーマが隠されているのです。今日はこの何気ないSNSのバズ現象を、少し科学的なメガネをかけてじっくりと解剖してみたいと思います。
人間は毎日膨大な量の情報に囲まれて生活しています。もし視覚や聴覚から入ってくるすべての情報を一言一句正確に処理しようとしたら、私たちの脳は間違いなくオーバーヒートしてしまいます。そこで脳は、エネルギーを節約するためにショートカットを使います。これを心理学では「ヒューリスティック」と呼びます。要するに、過去の経験や社会的なステレオタイプに基づいて、物事をパパッと自動的に判断してしまう仕組みです。今回の投稿の肝は、まさにこの脳のオートパイロット機能を華麗にハックしたところにあります。「ギャル」という言葉を聞いた瞬間、私たちの脳内では勝手に、現代の流行のメイクをした若い女性、例えば茶髪で、派手なネイルをして、といった具体的なイメージが自動生成されます。これは行動経済学で言うところの「利用可能性ヒューリスティック」の良い例です。つまり、思い出しやすい情報や、日常で触れる頻度が高い情報を基にして、確率や状況を都合よく見積もってしまうわけです。投稿者は「ギャル」という強烈なアンカリング効果を狙って仕掛け、読者は見事にそのフックに引っかかりました。そして最後に「80〜90代」という衝撃の事実が明かされた時、脳内で作り上げられていたイメージがガラガラと音を立てて崩れ去り、その認知のズレが強烈なユーモアとなって笑いに変換されたのです。
さらに面白いのは、この投稿に対するリプライ欄の盛り上がり方です。「おはエルフ」や「寿命がエルフなのか?」といったファンタジーに絡めたツッコミが続出しましたが、これは心理学における「共有された文脈」と「集団的創造性」の素晴らしい実例です。SNSというオープンな空間では、見知らぬ人同士が瞬時に一つのメタファーを共有し、それをさらに面白い方向へと膨らませていく現象がよく起きます。エルフという非現実的な種族に例えることで、高齢であるという事実のショックをマイルドにしつつ、みんなで一緒にボケを楽しむという安全な遊び場が作られました。社会心理学の視点から見ると、このようなユーモアの共有は、グループの結束力を高める強力な触媒として働きます。みんなで同じ罠に引っかかり、みんなで「やられた!」と悔しがり、ツッコミを入れる。この一連のプロセスを通じて、見知らぬSNSユーザー同士の間に一種の一体感が生まれるのです。認知のギャップを共有し、それを笑いに変える能力は、人間が社会的な生き物として進化する過程で手に入れた、ストレスに対処するための高度な防衛メカニズムの一つだとも言えます。
ところで、このやり取りの中で交わされた「年齢のことですか?それについてもしかして別の意味ですか!?」というような斜め上のツッコミも、人間の認知の歪みを考える上で非常に示唆に富んでいます。人は予測不可能な事態に直面したとき、何とかして自分の理解できる枠組みに落とし込もうと必死になります。あえて別の解釈を持ち込むことで、気まずさや驚きをユーモアで中和しようとするわけです。心理学でいう「ユーモアによるコーピング」、つまりストレスや驚きを笑いで乗り切るスキルの高さが、このリプライ欄に集まった人々からはひしひしと感じられます。無敵な世代と呼ばれる高齢の方々の底知れぬエネルギーと、それを受け止める現代のネット民の柔軟な思考回路が奇跡的な化学反応を起こしている瞬間と言えるでしょう。
このような日常の小さなハプニングを面白がり、見知らぬ誰かとその感情をリアルタイムでシェアできる現代のSNS文化は、私たちの脳にとって非常に良い刺激になっています。普段の生活ではどうしても論理的で効率的な思考ばかりが求められ、脳の同じ回路ばかり酷使しがちです。しかし、こうした叙述トリックやユーモア溢れる大喜利に触れることで、脳の普段使っていない柔軟な部分が刺激され、凝り固まった思考のストレッチをすることができます。科学的なデータを見ても、笑うことやユーモアを共有することは、脳内のエンドルフィンの分泌を促し、ストレスホルモンであるコルチゾールの数値を下げることが分かっています。つまり、ネットの面白い投稿に夢中になってツッコミを入れている時間は、心身の健康にとっても非常に理にかなった行動なのです。
私たちが何気なく見過ごしてしまうような日常のワンシーンも、見方を変えれば人間の認知の仕組みや社会的なコミュニケーションの面白さが詰まった最高の教材になります。ギャルだと思って見たら実は80代のエルフだったというシュールな事件は、私たちがどれだけ自分の思い込みの世界に生きているかを優しく教えてくれると同時に、それを笑い飛ばすことの楽しさを思い出させてくれました。もし次に街中で予想外の光景に遭遇したり、SNSで一本の巧妙な投稿に出会ったりしたときは、ただ驚くだけでなく、自分の脳内で今どんなヒューリスティックが働いているのかを少しだけ客観的に観察してみると、日常がさらに何倍も面白く感じられるようになるはずです。人間の脳のクセを愛おしく思いつつ、今日もおかしな出来事に大真面目にツッコミを入れていけるような、そんな心の余裕とユーモアを忘れたくないものですね。

