エヴァに乗れ!行動しない主人公は読者の欲望を裏切る

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■「乗れよ!」が火をつけた、行動しない主人公への深層心理と経済学

「エヴァに乗れよ!」という、ある編集長の発言がインターネット上で大きな話題を呼んでいます。これは、人気漫画「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公、碇シンジが、葛藤の末に最終的にエヴァンゲリオンに搭乗し、戦うことを選ぶあの有名なシーンを引用しつつ、「行動を起こさずに終わる作品」への鋭い指摘として放たれた言葉です。この一言は、多くのクリエイターや読者の心に響き、作品における主人公の「行動」や「姿勢」について、深い議論を巻き起こしました。

この発言は、漫画投稿サイト「コミックDAYS」で公開された「アフタヌーン四季賞」大賞受賞作「かんからりん」に言及する形で広まりました。この作品は、クラスで目立たない主人公が、文化祭の係決めで欠席したことで、なぜか陽キャグループのステージ班に組み込まれてしまうという、青春群像劇。一見すると、地味な主人公が否応なく「乗せられる」展開にも見えますが、その後の主人公の反応や、周囲との関係性が繊細に描かれているようです。

この「乗れよ!」という言葉に、多くの人が共感し、様々な意見が寄せられました。「物語が始まらない」「主人公が世界を変革させることもなく終わる漫画は、ウケる、売れるのが難しい」といった意見は、まさに主人公の「行動」が物語の推進力となるという、極めて本質的な指摘と言えるでしょう。特に、週刊少年ジャンプのような、新人賞作品でも主人公が「乗る」傾向が強い作品に慣れ親しんできた読者からは、「ジャンプの講評ばかり読んできたのでとても新鮮」という声も上がっています。これは、ジャンプ作品が、読者を飽きさせないための「勢い」や「展開の速さ」を重視する傾向があることの裏返しとも言えます。

一方で、「内向的で非社交的な性格と、何も行動しない「他責思考」は作品としても人としても論外であり、読者が感情移入できないのではないか」といった厳しい意見もあります。これは、心理学的に見れば、人間は自分と似たような状況や感情を持つキャラクターに共感しやすいという「類似性の法則」が働きますが、あまりにも受動的で、状況を他者のせいにばかりするキャラクターは、たとえ読者が内向的であっても、共感の対象になりにくいことを示唆しています。

しかし、内向的であっても「自責思考」で努力する主人公の例として、『おおきく振りかぶって』の三橋が挙げられているのは興味深い点です。三橋は、極度の臆病さから「軟投派」として野球を続けていますが、その内向的な性格を乗り越えようと、チームメイトと共に必死に努力する姿が描かれています。これは、単に内向的であることと、行動しないことは全く別物であることを示しています。内向性という特性を持ちながらも、自らの意思で「乗ろう」とする姿勢が、読者の共感を得られるのです。

「漫画を一本仕上げて投稿できるほどの『乗っている』側の人間の作品で、その主人公が『乗らない』という状況は不思議だ」という意見は、クリエイターの視点からの洞察と言えます。プロとして作品を生み出すには、それなりのエネルギーと行動力が必要であり、そのようなエネルギーを持つクリエイターが、意図的に「乗らない」主人公を描く背景には、何かしらの意図やメッセージがあるのかもしれません。

また、「コロナ禍で内向的な主人公の話が増えたのか」といった考察は、社会情勢と作品の傾向を結びつける、社会心理学的な視点と言えるでしょう。パンデミックによって、多くの人が自宅で過ごす時間が増え、内省的になる機会が増えたことで、内向的なキャラクターや、静かな物語を求めるニーズが増えた可能性も否定できません。

「アフタヌーンっぽいな」という前フリが効いている、といった感想や、「タツキっぽい」というフレーズを「アフタヌーンぽいな」と捉える意見は、特定の出版社や漫画雑誌が持つ、独特の「空気感」や「傾向」を読者が認識していることを示しています。これは、マーケティングやブランディングの観点からも興味深い現象です。読者は、雑誌名や編集部名から、ある種の作品を期待し、それに合致する作品に惹かれる傾向があります。

「アフタヌーンに寄り集まる作家や読者の感じを見ててもそういう人が圧倒的に多いから、作品の傾向がそうなってくのもそうなんやろなあ」という分析は、コミュニティ論や文化受容論とも関連してきます。特定のコミュニティに属する人々は、似たような価値観や思考様式を共有する傾向があり、それが作品のテーマやキャラクター造形に影響を与えることがあります。

「今のマンガ(特に創作系と称する作品)に対して自分も感じている事、そのままで…相手に罰を与える事は考えても、自分の行動に責任(ケジメ)を負う、という事を避けようとする」という意見は、現代社会における若者の傾向、特に「ゆとり世代」以降の価値観の変化と結びつけて論じられています。これは、教育学や社会学の分野で議論されることも多いテーマです。失敗を恐れるあまり、リスクのある行動を避け、責任を負うことを回避する姿勢は、作品のキャラクターにも投影されるのかもしれません。

しかし、一方で「実際はアフタ作品の主人公って行動派多いよな…性格が内向的なだけで…」という意見もあり、これは「アフタヌーンっぽい」というイメージが、必ずしも作品のすべてを正確に反映しているわけではない、ということを示唆しています。内向的な性格であっても、行動的な側面を持つキャラクターは多く存在し、そのバランスが魅力的なキャラクターを生み出すこともあります。

「リスクのある選択肢」に対して防衛的なスタンスが是とされる風潮が強まっているという分析は、行動経済学の「プロスペクト理論」で説明できます。人間は、利益を得る機会よりも損失を回避する機会に強く反応する傾向があります。この「損失回避性」が、現代社会ではより顕著になり、リスクを冒してでも何かを成し遂げようとするよりも、現状維持や安全策を優先する風潮が強まっているのかもしれません。

物語上「そこに乗ってくれるキャラ」が都合が良いのは事実だが、それを周辺の力学で達成するのも作者の手腕だ、というTRPGにも通じるような考察は、物語構成論や脚本術の観点から非常に興味深いです。TRPGでは、プレイヤーが必ずしもゲームマスターの意図通りに行動するわけではありません。むしろ、プレイヤーの予測不能な行動こそが、物語を面白くする要素となります。作者は、キャラクターが「乗る」ことを強要するのではなく、キャラクターが「乗る」ように仕向ける、あるいは「乗らなかった」としても物語が成立するように、周囲の環境や人間関係を巧みに配置する能力が求められます。

「勢いというか熱がない漫画や作品を見るとこっちもモヤっとした読後感になる。それを『エヴァに乗れよ!』と表現するのは流石プロ」という感想は、読者の感情に直接訴えかける力を持っています。読者は、物語の展開に感情移入し、キャラクターと共に「乗る」体験を共有したいと無意識に求めているのかもしれません。

「メダリスト」のような作品も「乗った側」であるという例示は、具体的な成功事例として、読者にイメージを掴ませるのに役立ちます。「一周回って『乗らなかった』作品集も見てみたい」という、逆の視点からの興味は、既存の枠組みに対する挑戦であり、新たな価値観の創造へと繋がる可能性を秘めています。

「ワイひねくれ者なので。ソレが多いのならそういうニーズもあるんじゃないか?」という、少数派のニーズに目を向ける意見は、ニッチマーケティングやロングテール理論といった経済学的な視点から見ても重要です。大多数の意見に流されず、独自の感性を持つ人々も存在し、彼らのニーズに応えることで、新たな市場が開拓される可能性があります。

「すんげえネームで読ませる作家なら乗らなくても面白い作品になるんじゃねえか?」という、作家の力量による可能性を示唆する意見もありましたが、「ほとんどの場合そんな奇跡は起こらない」と現実的な見方で締めくくられています。これは、才能という要素の重要性を認めつつも、それを普遍的な成功法則とするには限界があることを示唆しています。やはり、物語を面白くするためには、何かしらの「行動」や「推進力」が不可欠である、という共通認識が伺えます。

総じて、この「乗れよ!」という一言は、単なる漫画作品への批評にとどまらず、現代社会における若者の行動様式、リスク回避志向、そしてクリエイターが読者に何を求めているのか、といった多岐にわたるテーマを浮き彫りにしました。心理学的には、主人公への感情移入や共感のメカニズム、経済学的には、リスクとリターンの評価、行動経済学的なバイアス、そして統計学的には、作品のヒット要因や読者層の分析など、様々な科学的視点から考察できる示唆に富んだ話題と言えるでしょう。

■「乗る」ことの心理学:なぜ私たちは主人公の行動に惹かれるのか?

なぜ、私たちは物語の中で主人公が「乗る」姿に惹かれるのでしょうか。ここには、いくつかの心理学的な要因が考えられます。

まず、人間は、自分自身ではなかなか経験できないような出来事を、物語を通して追体験することに喜びを感じます。主人公が「エヴァに乗る」という、極めて非日常的で、かつ重大な決断を迫られる状況に置かれたとき、読者は「もし自分がその立場だったらどうするか?」と想像を巡らせます。そして、主人公がその困難に立ち向かい、「乗る」ことを選択する姿を見ることで、自分自身も勇気をもらったり、カタルシスを得たりするのです。これは、心理学でいう「感情的共鳴」や「感情移入」の効果です。

また、「成長物語」としての側面も重要です。多くの物語では、主人公は最初、臆病だったり、自信がなかったりする存在として描かれます。しかし、困難に直面し、「乗る」ことを決意することで、彼らは成長していきます。この成長の過程を見ることは、読者自身の人生における成長への希望やモチベーションに繋がります。自己肯定感の向上や、自己効力感の強化といった効果も期待できるでしょう。

さらに、「希望」という要素も欠かせません。絶望的な状況でも、主人公が「乗る」ことを選ぶことで、事態が好転する可能性が生まれます。この「希望」は、読者にとって大きな魅力となります。特に、現代社会は不確実性が高く、将来への不安を感じる人が少なくありません。そんな中で、物語の中の主人公が困難を乗り越える姿を見ることは、現実世界を生き抜くための希望の光となりうるのです。

ここで、「損失回避性」という経済学的な概念も登場します。人間は、得られる利益よりも、失う損失をより強く避けようとする傾向があります。主人公が「乗らない」という選択をすると、それは現状維持という「損失回避」の行動と見なされることもあります。しかし、「乗る」という選択は、未知への挑戦であり、失敗のリスクを伴います。それにもかかわらず、主人公が「乗る」ことを選ぶのは、その先に、失いたくないもの、あるいは手に入れたいものがあるからです。この「動機付け」の強さが、読者の心を掴むのです。

心理学における「動機づけ理論」に目を向けると、主人公の行動は、内発的動機づけと外発的動機づけの両方によって説明できます。エヴァンゲリオンに乗るという行為は、世界を救うという外発的な目標だけでなく、自分自身の恐怖を克服したい、大切な人を守りたいといった内発的な動機づけによっても突き動かされています。読者は、この内発的な動機づけに強く共感し、主人公の行動を応援したくなるのです。

■「乗らない」主人公の経済学:機会費用と行動経済学の視点

では、なぜ「乗らない」主人公は、読者の共感を得にくいのでしょうか。ここには、経済学的な「機会費用」や、行動経済学的な「現状維持バイアス」といった概念が関係してきます。

機会費用とは、ある選択肢を選んだことによって、放棄せざるを得なかった他の選択肢の価値のことです。主人公が「乗らない」という選択をすると、本来なら得られたであろう成長の機会、人間関係の深化、あるいは物語の劇的な展開といった「機会」を失うことになります。読者は、無意識のうちに、主人公がこれらの「機会費用」を最大化できない状況に、もどかしさを感じているのです。

経済学では、合理的な意思決定とは、機会費用を考慮した上で、最も効用(満足度)が高い選択肢を選ぶこととされています。しかし、現実の人間は、必ずしも常に合理的に行動するわけではありません。ここで登場するのが、行動経済学の「現状維持バイアス」です。人間は、現状を変えることへの心理的な抵抗が大きく、たとえ現状維持が最適ではないと分かっていても、そちらを選んでしまう傾向があります。主人公が「乗らない」のは、この現状維持バイアスに囚われている状態とも言えます。

また、「サンクコスト効果」も関係してくるかもしれません。これは、既に投じたコスト(時間、労力、感情など)を惜しんで、損失が出ているにもかかわらず、その行動を続けてしまう心理のことです。主人公が「乗らない」という選択を続けることで、これまで費やしてきた時間や苦悩が「無駄になる」ことを恐れている、と解釈することもできます。しかし、物語の観点からは、そのサンクコストを乗り越えて「乗る」決断をすることが、カタルシスを生むのです。

「他責思考」についても、経済学的な視点から見ることができます。他責思考とは、問題の原因を自分以外の何かのせいにする考え方です。これは、経済学でいう「市場の失敗」や「外部性」といった概念とも関連してきます。主人公が他責思考に陥っている場合、問題解決のための「インセンティブ」が働かない状態と言えます。つまり、自分で行動を起こすよりも、誰かが何とかしてくれる、あるいは状況が自然に好転することを期待しているわけです。このような主人公に対して、読者は「自分で何とかするべきだ」という「インセンティブ」を期待しているのです。

■統計学から見る「乗る」主人公のヒット要因

統計学的な視点から見ると、「乗る」主人公がヒットしやすい作品に多く見られるのは、偶然ではなく、ある種の傾向があると考えられます。

まず、ヒット作に共通する要素を分析する「特徴量エンジニアリング」のような考え方で見てみましょう。ヒット作には、魅力的なキャラクター、共感を呼ぶストーリー、予想外の展開、そして感動的な結語といった特徴量が多く含まれています。そして、「主人公が困難に立ち向かい、『乗る』決断をする」という要素は、これらの特徴量を誘発する強力なトリガーとなり得ます。

主人公が「乗る」ことで、以下のような統計的に有意な効果が期待できます。

1. ■物語の分岐と展開の多様性:■ 主人公が「乗る」ことで、物語は直線的な展開から、複雑な分岐へと移行します。これにより、読者は予測不能な展開に期待し、物語への没入感が高まります。これは、情報理論における「エントロピー」の増加とも言えます。エントロピーが高いほど、情報は多様で予測しにくい、つまり面白い、と捉えることができます。

2. ■感情的な高まりの機会:■ 「乗る」という決断は、しばしば主人公の内面的な葛藤を伴います。その葛藤を乗り越えて「乗る」シーンは、読者に強い感情的な揺さぶりを与えます。これは、心理学的な「感情の喚起」であり、物語の記憶への定着を促進します。

3. ■キャラクターの成長と変化の可視化:■ 「乗らない」主人公は、しばしば停滞した状態に留まります。一方、「乗る」主人公は、その行動を通して、恐怖を克服したり、新たなスキルを習得したりと、成長の軌跡を明確に示します。この「変化」は、読者にとってポジティブなシグナルとなり、キャラクターへの愛着を深めます。

4. ■テーマ性の深化:■ 「乗る」という行為は、しばしば「勇気」「責任」「信念」といった、作品のテーマ性を象徴します。主人公の「乗る」姿を通して、作者が伝えたいメッセージがより鮮明に読者に伝わります。

統計的な分析では、「主人公の行動頻度」と「作品のヒット率」との間に、正の相関関係が見られる可能性が高いと考えられます。もちろん、これはあくまで相関であり、因果関係を直接示すものではありません。しかし、多くのヒット作において、「主人公が主体的に行動し、困難に立ち向かう」というパターンが繰り返し現れている事実は、無視できないでしょう。

さらに、近年、SNSの普及により、読者の感想や評価がリアルタイムで共有されるようになりました。ポジティブな感想、特に「主人公の行動に勇気をもらった」「感動した」といった声は、他の読者の購買意欲や視聴意欲を刺激します。これは、「ソーシャルプルーフ(社会的証明)」と呼ばれる現象であり、ヒット作を生み出すための重要な要素となっています。

■「乗れよ!」という言葉の普遍性と未来

「エヴァに乗れよ!」という一言は、単なる漫画作品への批評を超え、私たち自身の人生にも通じる普遍的なメッセージを含んでいます。

私たちは、日々の生活の中で、数え切れないほどの「乗る」「乗らない」の選択に迫られています。新しい挑戦をするか、現状維持を選ぶか。自分の意見を主張するか、黙っているか。リスクを冒してでも、本当にやりたいことに飛び込むか。

心理学的に見れば、私たちは「損失回避性」や「現状維持バイアス」といった、行動を抑制する心理的なメカニズムに影響されがちです。しかし、人生を豊かにし、成長するためには、時にこれらのバイアスを乗り越え、「乗る」勇気が必要となります。

経済学的な視点では、「乗る」ことは、まさに「機会費用」を最大化するための行動と言えます。リスクを冒してでも、より大きなリターンを得る可能性を追求すること。それは、個人のキャリア形成においても、ビジネスの成功においても、重要な考え方です。

統計学的な観点から見ても、多くの成功事例は、主体的な行動と、それに伴うリスクテイクから生まれています。

「かんからりん」の主人公のように、内向的で、周りに流されがちなキャラクターが、物語の中で「乗る」ことを選択する姿は、多くの読者に共感と感動を与えるでしょう。それは、彼ら自身が、日々の生活の中で抱えている葛藤や、変わることへの恐れと重なるからです。

「アフタヌーンっぽい」という言葉に代表されるように、特定の作品の傾向や、読者の好みが語られることもありますが、本質的に、読者が求めているのは、キャラクターが主体的に動き、物語を動かしていく力強さなのかもしれません。

「一周回って『乗らなかった』作品集も見てみたい」という声も、確かに一理あります。しかし、それは、作者が「乗らない」という選択肢を選んだ結果、読者を惹きつけるだけの、他に類を見ない「何か」を生み出せる場合に限られるでしょう。そうでなければ、それは単に「物事の進展がない」だけの、退屈な物語になってしまう可能性が高いのです。

「乗れよ!」という言葉は、時に厳しく聞こえるかもしれませんが、それは、クリエイターが読者に、「物語を動かす力」への期待を込めて送るエールなのかもしれません。そして、私たち読者自身も、この言葉を、人生における「行動」への問いかけとして受け止め、より主体的に、より勇敢に「乗る」選択をしていくことの重要性を、改めて認識させられるのではないでしょうか。

もし、あなたが今、何かに行き詰まりを感じているなら、あるいは、次に何をすれば良いか迷っているなら、この「エヴァに乗れよ!」という叫びを、自分自身へのメッセージとして受け止めてみるのも良いかもしれません。そこには、きっと、あなたの人生を、より豊かで、より刺激的なものへと変える「きっかけ」が隠されているはずです。

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